10代女性のメンタルヘルスに悪影響とのデータも

米国で物議を醸した「子ども向けインスタグラム」が延期になったようです。

オンライン・メディア「クォーツ」によれば、Facebook社は9月27日(月)に“Instagram Kids”の展開を停止することを明らかにしました。

理由を見ると、2つありそうです。

1つ目は子ども(特に10代女性)に与える影響。インスタグラムの社内調査によれば「32%の10代女性が、自分の身体について快く感じていないときにインスタグラムを見ると、さらに気分が悪くなる」と回答しているそう。

さらに同社の調査では、自殺願望を報告した10代のうち英国ユーザーの13%、米国ユーザーの6%がインスタグラムに希死観念があることを明かすような投稿をしていたのです。

2つ目はシステム上の懸念です。

Instagram Kidsは保護者向けの管理機能を強化した広告なしのサービスになる予定でした。しかし、Facebook社のチャット・サービス  “Messenger Kids”では、設計上の欠陥により数千人の子どもたちが参加権限のないユーザーとのチャットに参加できるようになっていたと2019年の報告で明らかになっています。

また、SNSの子ども版を提供することについては「タバコ型のキャンディを与えるようなものだ」と批判する専門家も。将来的に通常のFacebookやInstagramなどのサービスに移行させるための戦略に過ぎないという見方もあります。

アベマTVでお話したことをふり返ると

実はこの問題については、数ヶ月前に「アベマTV」に出演した際に堀江貴文さんたちと議論をしました(公式サイトから無料で視聴できます)。

番組の構成上、賛成派と反対派に分かれるような構図を求められていた気もしますが、このときには「すでにSNS上のフェイクニュースなどで社会的分断が起きている米国で、子ども向けSNSに懸念を示す人が多いのは当然の流れ」とお話をしました。いま、米国では“大人向け”のSNSにも疑念が向けられているのです。

もちろん、子どもが早期にSNS依存することによるリスクは数々の研究が示していますが、いきなり議論が近眼的になるのを避けたく、あえてメタ的なお話から入ろうと決めました。

僕はテック企業が最初から邪悪なものを作ろうとしているとは思っていません。すでに非難轟々なわけですから。ですから、実際にサービスの全貌が見えてこないと、すぐに「これはだめだ」と断言するのも難しいというのが正直なところでした。

それよりは前出のようなデータを保護者たちが知っておくということ。それをもとに家庭での利用時間や使い方について話し合い、何より家族でのコミュニケーションの時間をしっかりとることのほうが、ひとつのサービスの是非を問うよりもはるかにフォーカスすべき点だと思うのです。

アベマでの議論中、「依存してもいいじゃないか」という堀江さんのご意見もありましたが、研究結果を見るとそのリスクはかなり大きいのも事実です。反対に無闇に恐がって拒絶反応を示すヒステリックな対応も事態を変えないと思うのです。

ヨーロッパのように個人情報の取り扱いに対して国民レベルで敏感であることは、確実にテック企業に対して強い抑止力になります。まさにリテラシーが大事だと感じる今日この頃です。

独立研究家の山口周さんは「オピニオン&エグジット」の重要性について話しています。「それは良くない」と意見を述べる。そして変わらなければ「去る」という、企業変革に求められる従業員の姿勢のことです。山口さんはこの姿勢が日本ではまだあまり見られないと述べられています。

SNSもユーザーの投稿がなければ空っぽの箱です。本当に危険でそれが変わらないのであれば、僕たちがエグジットすることもできるわけです。いわゆる「ボイコット」に近いかもしれません。そして「要らない」と言えば、市場原理によって淘汰されていくはずです。

そのオピニオン(声)を持つ日本人がどれだけいるのか。それによって、今後出てくる新しいサービスが危険なものになるかどうかも決まるはずです。今回のInstagram Kids場合、専門家や一般の人々の「声」が開発中止という結果を作り出しました。人々のオピニオンがInstagram Kidsを市場から退場させたのです。

オピニオンを持つためには、やっぱり知識が欠かせません。先日のアベマTVではそういう意味も込めて、研究結果など客観的なデータをもとにお話をしました。それをもとに各々が判断することこそが大切だと思います。