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【DIGITAL WORLD紀行】について
デジタルデトックスジャパンでリコネクターとして活動しているShodaiです。
デジタルデバイスとの付き合い方を見直し、「デジタル社会におけるより幸福度の高い生き方(ウェルビーイング)」を考える活動をDigital Detox Japanにて行なっています。
僕自身も本業はWebライター。普段はデジタル社会に染まって生きているのも事実です。
それは大きなジレンマでもあります。
自分が書く文章が誰かの役に立つのはうれしいですが、同時に読者をネット上により長く滞在させてしまう可能性もあるためです。
だからこそ、「デジタルデバイスとのより良い関わり方」を伝えていくこともIT業に関わる人の責務なのではないかと考えています。
日本が抱えるデジタル依存問題は海外でも?
僕は場所の制約を受けない仕事をしているのもあり、頻繁に海外へ渡り仕事や旅、独自の取材活動をしています。(今年に入りロシア、モンゴル、中国、香港に渡航。)
気になるのは、その国の人それぞれに異なるデジタルデバイスとの関わり方です。
訪れた国では例外なくスマホが普及していました。日本と同様にスマホ依存を危惧している国も多いです。しかし、ヨーロッパを中心に「オフラインの時間の確保」に向けて動き出している国もあれば、そうでもない国もあります。
そこで、コラムとして「世界のデジタル依存の様子とそれに対する取り組み」を取材・執筆していくことにしました。
きっと世界には、日本人が属するデジタル社会でどうバランスをとり生きていくかを知るためのヒントが隠れているはずです。
日本にはない問題。
そして、日本がこれから抱えるであろう問題。
滞在中にiPhoneを紛失するというトラブルがあり、そこにも大きな気づきがありました。
それでは、ご覧ください。
深セン(Shen Zen)
深センでみた加速度的なIT革新
さて、今は中国の深センにいます。
今はホテルでこの記事を書いています。
アジアのシリコンバレーとも呼ばれる深セン。スマートフォンからドローンまで、さまざまなデジタルデバイスが街中にあふれています。随一の電脳街エリアを歩いているとセグウェイで移動している人もちらほらと…。
ここ深センは、ドローンの世界売り上げで7割ほどのシェアを誇るDJIの本拠地としても知られています。そのほか、Huaweiやoppoなどの中国製スマホをはじめ、日本にはまだ進出していない電気自動車なども展示されていました。
驚いたのは漢方薬の自販機。なんと、機械が問診をして体調を診断。それぞれにあった薬を処方してくれるのです。驚くべきスピードでIT革新が進んでいるのを目の当たりにしました。
習近平首席の地元でもある深セン。彼の加護を受け、IT特区として発展している様子がうかがえます。
そんなエリアに住む人々は、デジタルデバイスとどう関わっているのでしょうか。
日本人とは違った情報社会に生きる深センの人々
まず、中国では政府が情報の検閲を行なっており、Googleをはじめ、FacebookやLINE、Instagramが一切使えません。これは現地を訪れた外国人も同様です。
とはいえ、彼らがスマホをあまり触らず、SNSの「繋がり疲れ」とも無縁なのかというとそうではありません。むしろ、状況は逆で深センの人々のほうが日本人よりも「スマホと密着した生活」を送っていることに気がつかされます。
大きな要因は2つです。その1つ目が政府による「情報統制」です。これは特に若い世代にとって関わりが深いかもしれません。
中国では冒頭であげたような検索エンジンやSNSの代わりに、百度(バイドゥ)や微博(ウェイボー)など中国人向けの国内サービスが充実しています。
しかし、聞いた話によれば中国人の若者は韓国や日本など海外の芸能人に興味があるようで、彼らのInstagramアカウントの写真を微博に流す人もたくさんいるそうです。
本来、政府の検閲下にない情報を流すことは認められていません。しかし、若い世代の飽くなき好奇心を満たしてくれるのはスマホだけなのかもしれません。TVや雑誌には彼らが求める情報はないかもしれないのですから。
彼らは今やスマホさえあれば、自国にいながらも国境を超えることができるのです。
深センの地下鉄に入れば、日本のそれと変わらない光景が飛び込んできます。みんな真剣な目でスマホを見つめているのは、もしかしたら「自国にはない情報が手に入れられるから」なのかもしれません。
また、年配の人でもスマホの音声入力などを駆使して、メッセージをやりとりしていることにも驚きました。
車両内でも通話はOKなようで、電話の声で車内はかなり賑やかな様子でした。
キャッシュレス化によって近づく「スマホと人」
深セン、あるいは中国の決済事情について特筆すべきは「アリペイ」でしょう。
紙幣を使わずに端末だけで支払いができる、いわゆるキャッスレスな生活を可能にしたのがアリペイです。
キャッスレス化もスマホが手放せないものになっている理由の1つです。
スマホで支払い情報を登録したあと、お店にあるQRコードをスキャンするだけで決済ができるため、これが中国の人たちの主な決済手段になっています。このアリペイは大げさではなく「どこでも」使われていました。(ホームレスでさえアリペイで寄付を求めることもあるそうです。)
通りの屋台にもQRコードが備えられていて、現地の人たちは次々にスキャンをして支払いを終えていきます。おつりを渡す手間が省けるため、屋台にとっても取り入れるメリットが大きいのでしょう。
僕が現金で払おうとすると、お店の主は嫌そうな顔をして紙幣を無造作に荷物の下にはさんでいました。
なかには、金額が大きいと「おつりがないから現金支払いはできない!」と拒否する店もあるほど。「通貨としての紙幣」はもはやここでは過去のものになりつつあります。
自国にはない情報を得られ、そして生活の支払いのほとんどができるスマートフォン。深センの人々は技術革新の恩恵を最大限に受け、それを謳歌しているようでした。
それだけに、スマホから離れる時間を作るのは日本よりも難しそうだと感じたのが正直なところです。あまりにスマホは彼らの生活に根ざしていて、知的好奇心を満たしてくれる存在だからです。
「スマホを見ながらの下車は危険ですのでご注意ください。」
地下鉄でのアナウンスが響くなか、人々の目線は手元のスマホにありました。
香港(Hong Kong)
香港では地下鉄で「スマホの使いすぎ注意」のCMが
深センで数日滞在したのち、僕は香港に向かいました。
深センと香港は陸続きのため、ロンフー駅で出国と入国手続きを行います。
香港に足を踏み入れると、うってかわって国際的な雰囲気。
あたりでは英語が飛び交っています。
ここでも相変わらず、人々はスマホを片手に歩いています。
しかし、深センとは違ってすでにスマホ依存を危惧する動きがあるようです。
地下鉄の車両内にあるスクリーン上ではニュースが流れており、金融の要所として世界経済を担う香港ならでは。
ニュースのあとのCMで、イラストで描かれた人間が首を丸めてスマホに視線を落としていました。
中国語のため読むことはできませんでしたが、おそらく「スマホの使いすぎは首に悪い影響を与える」といった警告をしている病院の宣伝でしょう。
日本でもスマホが原因と考えられるストレートネックや老眼などはすでに知っている人が多いかもしれませんが、ここ香港でもスマホが身体に与える影響が懸念されているのですね。
若い世代にはクリスマスよりハロウィン?
香港に行ったのは10月末。街はハロウィン一色でした。欧米の影響を色濃く受けている香港ではハロウィンも一大イベント。
僕も知り合った現地在住の日本人と一緒に香港有数の繁華街、ランカイフォンへ向かいました。
香港のハロウィンは圧巻の一言。
人種もコスチュームもばらばらな人たちが一同に行進する姿は、写真におさめずにはいられないほど。
露出の激しい女性コスプレイヤーから、メイク学校の生徒によるゾンビの仮装まで。僕も気がつけば彼らとたくさんの「セルフィー」を撮っていました。
やはり、ここにも「片手にはスマホ」です。
道行く人とセルフィーを撮ったあとはすぐにInstagramやFacebookに。
僕のFacebookのフィードも仮装をした友人の画像で埋め尽くされていました。
たくさんの人でごった返すランカイフォンの通りの上は提灯で彩られ、そこにはなんと「Cool Japan」の文字が。
おそらく、日本がスポンサーをしているのでしょう。
そして、SNSにアップしてくれと言わんばかりにアニメキャラクターが描かれたボードが立てられていました。ここにもCool Japanの文字が。
コスプレイヤーは次々にこのボードの前に立ってセルフィーを撮り、すぐさま写真をSNSへ。
Cool Japanのマーケッターたちの思惑通り、といったところでしょうか。
SNSの台頭で「バズった」ハロウィン
いうまでもなくハロウィン自体は伝統的なイベントです。しかし、これほどまでにSNSによって市民権を得た伝統行事はないのではないでしょうか。
日本でもハロウィンがニュースになるほど盛り上がるようになったのはつい最近のこと。
単に仮装をして友達と遊ぶだけであれば、日本でここまでの広がりを見せることはなかったかもしれません。
しかし、ハロウィンは年に一度きりで、自分のコスチューム写真にいいねやコメントが集まる大きなチャンス。手の込んだ仮装になるのもうなずけます。
立ち止まって考えてみると、ハロウィンがここまで一大イベントとなったのは、こうしたユーザーの「SNSでの承認欲求」を見越したマーケッターの働きかけがあるのかもしれません。
先ほど挙げたクールジャパンのようにみんなが写真を撮って拡散させてくれれば、企業や飲食店にとってこんなに良いプロモーションはありません。
いかに写真を撮ってもらい、拡散してもらうか。
「インスタ映え」という言葉は実は「認知度を上げたい」と考えているマーケッターの策略から生み出されたのかもしれません。
クリスマスも同様ですが、伝統的な行事は自分のブランドを認知してもらうための商戦の場になります。
サンタの赤色の服はコカ・コーラ社のキャンペーンだったというのは有名な話ですし、少し前の日本では「クリプレはティファニー」というイメージがありました。
しかし、ハロウィンにおいては商戦の場は実店舗からオンラインへと移っているようです。
欧米に関していえば、家族で過ごすクリスマスよりも友達と過ごすハロウィンは「インスタ映え」の宝庫でもあります。
ある意味ではハロウィンはSNSによって近代型のイベントに生まれ変わっているのかもしれません。
SNSアカウントへのいいねとコメントで自己承認欲求を満たしたいユーザーと、そのユーザーに自社ブランドの名入りの「インスタ映えスポット」を提供するマーケッター。
彼らはオンライン上で見事なWin-Winの関係を築いているように感じます。
しかし、その傾向が強くなればなるほど、スマホを手にする時間が増えていくことは間違いありません。プロのマーケッターは無料で情報を拡散してくれるSNSユーザーをどう広告として利用するか、今日も頭を悩ませているのでしょう。
ハロウィンとSNSの密接なつながりを感じた香港での一夜でした。
後編では、取材中に無くなってしまったiPhoneと帰国後に選んだ僕なりのデジタルウェルビーイングへの道について。そして、脱デジタル依存を目指すシリコンバレーの取り組みを帰国後のリサーチを交えて紹介していきます。