穴吹エンタープライズの事業展開

私ども穴吹エンタープライズは、ホテル・旅館事業、スポーツ・健康増進事業、サービスエリア事業など幅広く事業展開しており、公民連携*(PPP)事業部もそのひとつです。私が支配人を務める「ル・ポール粟島」の運営は公民連携(PPP)事業にあたります。

※公共施設等の建設、維持管理、運営等を行政と民間が連携して行うことにより、民間の創意工夫等を活用し、財政資金の効率的使用や行政の効率化等を図るもの。(国土交通省HPより)

https://www.mlit.go.jp/sogoseisaku/kanminrenkei/content/001449338.pdf

会社としては「かがわ地方創生SDGs」への登録や社員へのeco検定学習・取得の推奨、健康経営優良法人としての認定などに取り組んでいます。背景には、経営者が掲げる「便利さを追求した機能性や効率性の提供だけでなく、いかに情緒的な付加価値で豊かさを提供できるか」があります。

研修制度については新⼊社員研修、グループ合同での1・2・3年⽬研修、階層別研修、SNS研修等、⾃⼰成⻑をサポートする研修があります。「ル・ポール粟島」で実施する一泊二日の新入社員研修にデジタルデトックスを導入したのは今年で2年目で、14名が参加しました。

二日目の研修を終えたのち配属先の辞令が渡されるため、皆職場はばらばらになります。しかし配属先は違っても同期入社という連帯感は強くなるような気がしています。

「ル・ポール粟島」での新入社員研修 

コロナ禍により「ル・ポール粟島」もしばらくは休業を余儀なくされていました。営業再開(21年6月)と新入社員辞令式のタイミングがたまたま合致したこともあり、経営者サイドからの声掛けで「ル・ポール粟島」での研修がスタートしました。

コロナ禍で失われつつあった仲間意識を同じ釜の飯を食べて高めたいというねらいです。

エビデンスをもとにデジタルデトックスについて学ぶ

初日の夜は焚き火を囲みます。研修中は日本デジタルデトックス協会森下理事によるデジタルデトックスの講義だけでなく、スマホをフロントに預けるといった実践にも挑戦してもらいます。スマホを携帯できないため、焚き火を囲んでいる最中にもスマホに触れたい衝動に駆られてしまう子もいます。何をしたらいいのかわからない。さすがに手持ち無沙汰はかわいそうだと思いギターを渡しました。

その様子を見ていた社長の三村から言われました。

「与えすぎてはいけません。こういった時間にみんなが何をするのかを黙って見ることも大切ですよ」と。

デジタルデトックス研修中の焚き火タイム

たしかにスマホがあれば焚き火の前でも触っていることを想像できてしまう。でもスマホがない状況で若い子たちが何を考えどう動くのか、その時間の流れを見守ることこそが重要なのだと諭され、目から鱗でした。

二日目は早朝から登山です。男性グループ数名が疲れ切っていました。どうやら夜中まで部屋に集まって話し込んでいたらしいのです。スマホがなかった私たちの若い頃であれば当たり前のように思えます。話すしかないわけです。しかし、スマホを持っていたら各自が部屋に籠って自分の世界にどっぷりと没入してしまうんでしょうね。

「何もない島」粟島

結局のところ、粟島の魅力は「何もない島」に行きつきました。本当に何もない。これまでいろんなことを考えて、いろんな仕組みを作って、いろんなことにチャレンジしてきましたが、どの島にも(マーケティング的には)負けてしまう。派手なアトラクションがあるわけでもない。

じゃあ逆に「何もない島」でもいいんじゃないかと。初めてこの島に赴任した15年前、私が出した答えでした。

何もないけど「人」はいる。リピーターは増えていたので、そのリピーターの人たちが何を求めて来ているのかといえば人だったんですね。人との関わり、人との接点を求めて粟島に来るんだと気づきました。

旅行者同士の出会いがあります。粟島の住民との触れ合いもあります。触れ合いがあるとすごく島のことが分かってきて楽しい。そこに私たちがワンポイントだけアドバイスを差し上げることによって、その季節の一番いい場所や景色を眺めてもらえます。そうするとやっぱりお客様には響くのかなと。今度は別の季節にも来てみようかと思ってもらえたりするわけです。

ビーチコーミングの時間も

本当にきれいなものを見たときに「きれい」と感じることが大切です。皆さん、カメラとか画面越しで見ているんですよね。目に焼き付けていないんです。もったいない。

けっして撮影がいけないと言いたいのではありません。私自身、趣味はカメラです(笑)ただきれいな景色を前にカシャと撮って、はい終わりではもったいない。空気感であったり、時間であったり、会話であったりと一期一会の体験があるんですよね。

「ル・ポール粟島」では『デジタルデトックス体験プラン』をご提供しています。これは滞在中スマホをお預かりすることで、ゆったりとした時間・空間の流れに身を委ねていただけるプランです(注:使い捨てカメラをお渡ししています)。これはとても贅沢な時間ではないでしょうか。

波打ち際にウミホタルをリリースした景色を「砂浜の銀河」と称して見ていただくのですが、カメラ好きでいらしていたお客様が写真を撮らないんです。「なぜ撮影されないんですか?」と尋ねたところ、「もったいない」と言われました。「これは目に焼き付けます。レンズ越しに見る景色じゃない」と。ふとデジタルデトックスを感じる瞬間です。

「新入社員研修」とデジタルデトックス

こういった私自身の体験も踏まえて、デジタルデトックスを新入社員研修に導入したいと考えるようになりました。「何もない島」粟島で、お客様に提供できるホスピタリティとは何か? これからお客様を迎える社員自らに体感してもらいたかったのです。

もとは、協会の森下理事から『デジタルデトックス・アドバイザー®︎』養成講座のお話をうかがう機会がありました。コンセプトとその志に共感し、また当社の理とも合致するものでしたから、二つ返事で「デジタルデトックス・アドバイザー®︎になります!」とお伝えしたのが最初です。

今年の新入社員研修には社長の三村も参加しました。三村はソロキャンプが大好きで山籠もりするタイプです。ご多分に漏れず圧倒的にスケジュールが立て込んでいる人間ですが、オフの取り方は徹底しています。オン・オフの切り替えが抜群にうまい。年末年始やお盆休みはスケジュールを完全にオフにしています。そうやって自らで遮断しないとオフは作れないのでしょう。

経営陣がデジタルデトックスの重要性を理解し取り入れていかないことには新入社員研修への導入はなかったと思います。いくら人から「デジタルデトックスっていいですよ」と聞かされても、自分自身がそうだと思えないことは腑に落ちない。身に付かない。

新入社員研修では「習慣化」もキーワードです。新入社員としてスタートラインに立ち、1つでいいからこれは続けようと思えるものがあるか。別にデジタルデトックスでなくてもいいんです。1つ何かこれをやりますといった、もう簡単なことでいいんです。たとえば、人より朝早く出社するとか、朝出社したら必ず挨拶するとか。それと一緒だと思うんですね。だからそういったことができる子はたぶん、デジタルデトックスもできるはずです。自分で時間をマネジメントするといったところに繋がるように思えます。

いずれにせよ、頭で考えるだけでなく実践してはじめてそのよさや価値に気が付くのではないでしょうか。デジタルデトックス体験を通じて、多くの気付きを得てほしいと願っています──。

言葉だけが独り歩きしてはいけない

先進的な取組には必ずや「トップマネジメント」がある。社長自らの気付きの社内共有は、間違いなくビジョン、経営理念の具現化に繋がる。「ウェルビーイング」「健康経営」といった言葉が独り歩きしがちないま、DX(Digital Transformation)の推進と対をなす形で、その弊害を認識しリトリートする時間があってもよいのではないか。

デジタルデトックスがその一助となれば幸いである。

(聞き手・編集:一般社団法人日本デジタルデトックス協会 森和哉エグゼクティブ・プロデューサー)