このたび、当協会は神奈川県立横浜平沼高校サッカー部と連携し、「デジタルデトックス✖️サッカー合宿」を行いました。学生のスポーツ合宿にデジタルデトックス体験をミックスさせた企画です。アスリートの新しい休息・集中法として効果が期待できるかもしれません。この記事ではその模様をお伝えします。

最高の組み合わせ

8月9-11日、私が月4回程度のペースでゴールキーパーコーチをつとめる横浜平沼高校サッカー部は夏合宿を茨城県波崎で行いました。これから遡ること約1ヶ月前、監督から合宿の日程を告げられました。その瞬間、「合宿は最高のデジタルデトックス体験の機会」と直感し、監督にデジタルデトックスプログラムの導入を提案しました。睡眠や運動パフォーマンスなどに与えるメリットを伝えると「ぜひやりましょう」と快諾いただきました。実施決定後も監督との打ち合わせを重ね、高校生23人にデジタルデトックスを体験してもらいました。

スケジュール

<1日目>

合宿地 波崎 到着

練習試合

夕食

トレーニング

20:00デジタルデトックス

概要説明

スマホが睡眠に与える影響

スマホの利用時間チェック 

アプリの整理

22:00 就寝 スマホ回収の儀

<2日目>

6:00トレーニング

7:30朝食(スマホ返却) 

練習試合

夕食

トレーニング

20:00デジタルデトックス

マルチタスキングと集中力

会話の質に与える影響

グループワーク

22:00 就寝 スマホ回収の儀

<3日目>

6:00トレーニング

7:30朝食(スマホ返却)

練習試合

〜終了〜

恐怖のデジタルデトックス?

合宿先に向かうバスの中は「これぞ青春!」と言わんばかりのお喋りやゲームで大盛り上がり。コロナで学校行事が制限されていた時間を取り戻すかのようにエネルギーで満ち溢れていました。

そんなとき、どこからか「今夜スマホ使えないらしいよ」という少し不安まじりの声が聞こえました。生徒には事前に合宿中の夜はスマホを回収することを伝えていたので、生徒の口から漏れたその言葉の裏には「今のうちにスマホを使っておこう」という思いが込められていたのかもしれません。

 

しかし、グランドに到着しユニフォームに袖を通した瞬間、そんな不安も吹き飛びます。グランドから聞こえてくるのはお互いを鼓舞する声かけやボールを蹴る音だけで、アプリの通知音もTiktokの人気音楽もありません。これこそスポーツの魅力であり、デジタルデトックスとの親和性が高いことの裏付けでしょう。私が講義するまでもなく、生徒たちはすでに「サッカーという名のデジタルデトックス」を始めていました。

試合風景 赤色のユニフォームが横浜平沼高校 同校提供

(試合風景 赤色のユニフォームが横浜平沼高校 同校提供)

スクリーンタイムチェックの衝撃

初日の厳しいトレーニングを終え、いよいよデジタルデトックスのスタートです。1日目のテーマは「現状を知る」ということで、デジタルデトックスの概要と必要性を説明した後、各自スマホのスクリーンタイム機能を使って日頃のスマホ利用時間を振り返ってもらいました。ほとんどの生徒がスクリーンタイムの確認方法を知らず、いざ利用時間を調べてみると「お前やべーな!」などの言葉が飛び交っていました。この光景はデジタルデトックスではお馴染みの光景でしたが、今回はなかなかの強者がいました。1日のスマホ利用時間「12時間」!Youtubeを垂れ流しにしてしまったのが原因だったようです。とは言え、本人も時間を無駄にしているという自覚があるようでした。彼がこの合宿で何を持ち帰ってくれるかとても楽しみになりました。

スクリーンタイムチェックをする岩田怜大さん

(スクリーンタイムチェックをする岩田怜大さん 本人提供)

 

人狼で大盛り上がり

全体レクチャーを終え、いよいよスマホ回収の儀の時間。時間通りに全員のスマホを集め、「スマホがない夜」のスタートです。「スマホもないし暇だからすぐ寝るだろう」と監督は、どこか彼らのある意味スマホを使えないという“不幸”を楽しんでいるようでした。しかし、コーチの部屋まで騒ぎ声が聞こえてくると、監督の予想が外れたことは明白でした。日頃から彼らに接している監督ですら見誤ってしまう。それほど若者のエネルギーは大人の予想を遥かに上回ってきます。

 

翌朝、キャプテンに何をしていたのか聞いてみると、「深夜1時まで人狼ゲームやっていました」とのこと。しかも狭い部屋に25人全員集まって(笑)。「昨晩の講義で睡眠の大切さを伝えたのに…」と悲しくなりながらも、彼らのこの行動は別の角度から見れば、自主的なデジタルデトックスの実践とも言うことができます。「スマホがないならみんなで集まってトークやアナログゲームで楽しめばいいじゃん!」今この状況を楽しむためには何ができるかを考えて行動する。とても素敵な姿勢です。

我々デジタルデトックス協会も「スマホやめて何する?」は永遠のテーマです。もしかすると、彼らのような学生のほうがこのテーマに関してはプロなのかもしれません。そんなことを考えさせてくれる夜でした。

お互いの意外な一面を知る

朝から生徒たちの楽しそうな夜の話を聞いて少しホッコリしたのも束の間、朝6時からのトレーニングは容赦なく寝不足の選手たちを追い込みます。修学旅行ではなく合宿ですからね!この日も多くの試合と練習をこなし、夜はデジタルデトックスパート2です。

前半はついついやってしまう「ながらスマホ」やマルチタスキングの弊害、そしてスマホが対面の会話に与える影響を学んでもらいました。後半はその実践として、少人数のグループに分かれてスマホなしで会話してみました。しかし、急に喋れと言われても難しいので、今回は「ガムトーク」というおもちゃを用意しました。遊び方はとてもシンプルで、カードに書かれたテーマについて話すだけ。唯一のルールは誰かが話終えたら聞き手は「いい話や〜」と言ってあげること。芸人のように面白いオチを言うプレッシャーがないので、誰でも自由にテーマにそって話をすることができます。

30分間トークを楽しんでもらいましたが、これまたいい盛り上がりでした。ある生徒は料理男子ということが判明したり、かたや電子レンジを使ったことがないという生徒が現れるなど、個性豊かな一面を知ることができ、選手同士そしてコーチと選手の相互理解が深まりました。最後はキャプテンの淡い恋愛体験の話で会場の熱はピークに達し、時間を忘れるほど友達の会話に耳を傾けていました。

(レクチャーの様子)

朝のスマホ返却で変化

2日目の夜は疲れも溜まったのか、初日のような大声も聞こえず、最終日の朝を迎えました。朝食の後、恒例のスマホ返却の時間がやってきました。しかし、今朝はどこか様子が違います。初日は一斉に取りに来て、「スマホおかえりー」「はやくウーパールーパーにエサあげなきゃ」などスマホとの再会を待ちわびていたような声が聞こえていましたが、今朝はみんな冷静です。中には「俺はギリギリまでデジタルデトックスするぞ!」とあえて最後までスマホを取らない生徒もいました(笑)。

アンケートの詳細はのちほど紹介しますが、「ぐっすり眠ることができた」「意外とスマホがなくても平気」という感想がとても多かったです。その結果が今朝の「落ち着き」だったのかもしれません。

アンケート結果

有効回答数:22

質問①:「デジタルデトックス」という言葉を知っていましたか?

 

質問②:スクリーンタイムをチェックして、予想と現実を比べてどう感じましたか?(1:予想より少なかった/5:予想より多かった)

 

質問③:スクリーンタイムチェックの結果を受けて、今後スマホの利用時間をどうしていきたいですか?

 

質問④:2日間スマホなしで睡眠をとってどう感じましたか?

・朝スッキリ起きられた気がする
・目が覚めてから行動するまでが早くなった
・普段よりも深い眠りにつけたように感じた
・朝早起きだったが、そこまで眠気を感じることは無かった
・夢を見なかった
・特にいつもと変わらない
など

 

質問⑤:スマホがない状態で会話をしてどう感じましたか?

・人と目が合いやすくなり、相手もしっかり聞いてくれてるから話しやすかった
・スマホのことを完全に忘れて話したのでとても楽しい会話ができた
・(スマホが)ないからこそ色々なことを楽しめた
・いつもより顔を見て話すようになった
・話がスムーズだし、よく聞けた
など

 

質問⑥:今回の講習や体験の後、デジタルデトックスを「日常生活でも取り入れたい」と感じましたか?

質問⑦:デジタルデトックス体験を通じてどんな気づきや学びを得られましたか?

・自分がスマホに依存している事に気づけたし、1度スマホを絶ってみると、それほどスマホが重要でないことに気づくことができた
・スマホの利用時間が1日の多くを占めていて勿体無いなと思った
・便利なスマホは正しい使い方をしないと体に悪影響を及ぼすことがあるということを学んだ
・スマホをいちいちチェックしなくていいから話が盛り上がりやすかったように感じた
・スマホを使わなくても意外に楽しめることは多くあると気づいた
・最初はスマホがないと厳しいと思っていましたが、なくても意外と気にならないことがわかりました。家でもスマホを触らない時間を作ろうと思います
など

 

まとめ

アンケート結果からもわかる通り、2泊3日の体験だけでも多くの学生がデジタルデトックスの効果を感じることができました。そしてほぼ全員がデジタルデトックスを日常生活に取り入れていきたいと回答してくれました。ストレッチ中や試合前夜の過ごし方を見直すきっかけにもなり、スポーツをする人にとってもデジタルデトックスが与えるプラスの影響は大いに期待できます。

 

スマホなどのデジタル機器を使っていくなかで大切なことは、その利用と運動やリアルな人とのコミュニケーションなどとのバランスを取ることです。今回の合宿を通して、生徒たちはとても自然にそのバランスを取れているということが分かりました。この習慣を大切にして今後も学校生活を楽しんでもらえればと思います!

横浜平沼高校サッカー部のみなさま、この度はご協力いただきありがとうございました!